仕事でいつも決まったコースを一日二回歩く。
この日課が始まって3ヶ月ほどしたある日、ふと見ると建物と建物の間、
路地の向こうに稲荷があるのに気づいた。
それは小さな小さな、マンションに申し訳程度についている公園くらいの広さの稲荷だ。
昔ながらの民家に四方を囲まれているからか、薄暗く感じて
なんだかそこだけ異次元空間のような場所に思えた。少しその雰囲気がこわかったのもあって
その後も数ヶ月間、気にはなっていたものの、毎日前を素通りしていた。
ある時、やっぱり素通りばかりも失礼かと思い、お参りをすることにした。
勘が鋭い知人(私は霊感が強いんだと思うけど、本人は否定しているw)に、稲荷にお参りするときは、
願掛けをしてはいけない。感謝と挨拶だけしておいでといわれたので、ワンカップのお酒だけ
お供えして、毎日近隣の家々のお守りお疲れさまですと感謝と挨拶だけのお参りをした。
お参りする人はいなかったけれど、お神酒や塩、水は器も清潔で毎日取り替えられているようで
きちんと祀られている祠だった。
それから、二年が過ぎた。
相変わらずほぼ毎日稲荷の前を通っていて、時間と気持ちに余裕があるときは
挨拶だけのお参りをしている。
やはりお参りする人に遭遇することはごくごく稀にしかなくて、淋しいかもしれないと
まるで独居老人の家庭訪問に行っている気分になったりする(神様に向かって、、失礼しました)。
二年の間に周囲を囲んでいる家屋に火事があったりして、
周囲の建物は少し様変わりしてしまったけれど、あいわらず稲荷はひっそり立っている。
稲荷の鳥居が老朽化していたため、しばらくの間、取り除かれていたのが、つい先日
うっかりいつもより1時間遅れてその前を通ったら、新しい鳥居が出来ていた。
あぁ 新しいのつけてもらったんだねぇと思っていたら、
珍しくお参りしていた初老の男性が、つい30分ほど前に新しい鳥居が
立てられたことを教えてくれた。
前を通るたびに鳥居のないのが不自然で
ちょっと気になってたから、新しいの立ったよ~と稲荷が教えてくれたのかなと
偶然といえばそれで片付いてしまってつまらないので、密かにそう思い込んでいる。